第18回 「今日チビスケが生まれるよ」(妊娠39週/陣痛が始まる)
「なんでパパがおうちにいるの?」
食事を終えて、家に帰る。しばらくして、ナツが学校から帰ってくる。
ナツ「ただいまー。あれ、なんでパパがおうちにいるの?」
トシ「さて、なぜでしょう?」
ナツ「うーん(としばらく考えるが)わかんなーい」
トシ「今日チビスケが生まれるよ」
ナツ「えっ、ほんとう?」
アチャのお迎えは、保育園のお昼寝が終わる2時半ごろに行けばいいと思っていたが、その時間になっても陣痛の間隔は10分より短くならない。ときどき15分くらいあくときもある。まだまだって感じだな。アチャのお迎えはもう少しあとにしよう。痛みの合間に洗濯物を取り込んだり、洗い物をしたり、コーヒーを飲んだりして過ごす。
「今度はおやつか(笑)」
3時。まだ陣痛は強くならない。
ヨーコ「おやつにしようか。アイス食べたいなあ」
ト シ「今度はおやつか(笑)。ナツ! アイス買いに行こう」
ナ ツ「うん、行くー」
ナツとトシが買ってきてくれたアイスを居間のテーブルで3人で食べる。こんなふうに3人でアイスを食べる風景もなんだか不思議。ゆっくりと時間が過ぎていく。
ヨーコ「そろそろ助産院に電話しなくちゃね」
ト シ「どこで産むの?」
ヨーコ「うーん、なんかこのままだと夜になっちゃいそう。夜なら家のほうがいいかな」
ナ ツ「ナッちゃん、おうちがいい」
ヨーコ「どっちにするか決めないと電話できないねえ。まだまだって感じだからナツとパパ、サイクリングにでも行ってきたら?」
ト シ「じゃ、そのあいだにどこで産むか決めておいてね」
ナツとトシ「じゃ、行ってきまーす」
陣痛のがしのダンス
ナツは最近自転車が上手に乗れるようになったが、アチャが一緒だとなかなか遠くまでいくことができないのが不満。今日はパパと2人、町を一周してきたらしい。30分ほどしてもどってきたナツは満足げ。楽しかったね、ナツ。
トシはなかなか進まない陣痛を横目に、書斎で仕事を始めた。ナツは家の前で自転車に乗って1人で遊んでいる。私は不思議な感覚に包まれていた。今のこの時間が、特別な時間のようであって、いつもと変わりない日常のようでもある。ときどきやってくる痛みだけがいつもと違って、ああ、もうすぐチビスケが生まれるんだと思う。
そうこうしているうちに、やっと陣痛の痛みが強く長くなってきた。痛みがくると、立って腰を回しながら「フー、フー」。外遊びからもどってきたナツがまねして腰を回すので「上手だね」と褒める。ナツといっしょに腰を回しているとダンスでもしているようで楽しい気分になってくる。書斎にいるトシに声をかける。
ヨーコ「陣痛が進んできたよー。アチャ、迎えに行ってきて!」
「ママとチビスケを応援してね」
夕方5時。アチャが保育園から帰ってきた。これで家族全員が揃った。
ヨーコ「アチャ、チビスケ生まれるよ」
アチャ「チビスケ、生まれるの?」
ト シ「そうだよ。ナツもアチャも、ママとチビスケを応援してね」
ナツとアチャ「うん、わかった」
さあ、いよいよ決断の時。
ヨーコ「サイトーさんに来てもらおうか」
ト シ「うん」
ナ ツ「えーっ、ナッちゃん、サイトーさんちに行きたいなあ」
ヨーコ「さっきはおうちがいいって言ってたじゃないの」
アチャ「アチャもサイトーさんち、いくー!」
ヨーコ「チビスケが生まれるのは夜になりそうだし、サイトーさんにおうちに来てもらって、おうちで産もうよ」
ナ ツ「サイトーさんちがいい!」
アチャ「アチャもー」
ト シ「うーん、サイトーさんちに行ったほうがスマートかな」
最後の答えは自分でもあっけないくらい簡単に出た。
ヨーコ「うん、じゃ、みんなで行こう!」
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