第7回 ぎっくり腰(妊娠15週)
「いたたっ!」
まもなく妊娠5ヶ月。いわゆる安定期といわれる時期だ。つわりもおさまり、おなかが本格的に大きくなるまでのつかのまの“快適な”マタニティ生活が待っているはずだった。
事件は土曜の午後に起こった。家のリビングのカーペットの上に座っていて、立ち上がろうとしたその瞬間、左のおしりが「ぎくっ!」と音をたてた気がした。
ヨーコ「いたたっ!」
ト シ「だいじょうぶ?」
ヨーコ「う、うん。ちょっとぎっくり腰やっちゃったかも。」
痛いのは腰というよりおしりである。こういうのを「ぎっくりおしり」とでも言うのだろうか。実は数日前から腰に違和感を感じていた。おなかが大きくなってきたからだな、気をつけなくちゃいけないなと思っていたところだったのだ。
でも、とりあえずは動けるので大丈夫。少し体を休めればよくなるだろう。いつものように夕飯のしたくをして、風呂から出た子どもたちに服を着せ、歯磨きさせ、寝かしつけ、自分も早めに床についた。
歩けないよー
ところが、翌朝になると、おしりの痛みはかなりひどくなっていた。階段の上り下りどころか、歩くのもままならない。動こうとすると左のおしりの真ん中あたりが「ズキッ」とうずく。
「ママ、だいじょうぶ?」
ナツとアチャも心配になったのか、声をかけてくる。
ヨーコ「ママ、おしり痛くしちゃって動けないから、今日はパパと遊んでね」
ナ ツ「うん、わかった」
どうしたものか。いろいろ調べてみると、ぎっくり腰はまず安静にしなければいけないそうである。昨日おとなしく休んでいなかったことが症状を悪化させてしまったようだ。
病院に行ったほうがいいかしら。こういうとき何科を受診するのだろう。妊婦でも治療できるのだろうか。レントゲンをとるわけにもいかないだろうし、投薬にも制約が多いだろうし、おまけに今日は日曜。受診できる医療機関も限られる。とりあえずお世話になっている助産院に電話で相談してみることにした。
トコちゃんベルトを借りて
ヨーコ「実は、こういうわけでおしりを痛めてしまったんです」
助産婦「じゃ、トコちゃんベルトをしてみますか。これからご自宅にお届けしますね」
日曜なのにたまたま出勤していた助産婦さんが、仕事帰りにトコちゃんベルトを持って、我が家まで来てくれた。助産婦さんが救世主のように見えた。
助産婦さんが持ってきてくれたのは、骨盤を固定し腰痛を予防するためのベルトで、トコちゃんベルトとベルビーベルトUの2種類。試してみて使いやすいほうを使ってくださいとのこと。助産院では妊婦さんにこのベルトを貸し出してくれるそうだ。そのまま使い続けたいときは買い取ればいいらしい。購入前に試してみられるのはありがたい。
両方試してみて、私には骨盤部分だけを固定するベルビーベルトUのほうが使いやすかったので、しばらくそちらをお借りすることにした。
先生の仕事は休みにくい
翌日は何とか動けそうだったので、ベルビーベルトを身につけて仕事にでかけた。仕事中はそれほど痛みも気にならなかったが、帰宅後、痛みがぶり返した。仕事中は気が張っていたのかもしれない。
痛みは翌朝になっても治まらない。でも仕事に行かなくちゃ。
現在やっているいくつかの仕事の中で、一番休みにくいのが中学校の講師の仕事。学校では生徒たちが待っている。学校の先生というのはとにかく忙しい。私が休めば、私の代わりに別の先生に貴重な空き時間、教室に行ってもらわなければならない。
授業に穴を開けることは、生徒たちにも同僚の先生たちにも迷惑がかかる。それに生徒たちにはまだ妊娠していることを伝えていない。休めないよなあ。
ぎっくり腰と陣痛のダブルがきたら?!
トシ「休んだほうがいいよ。無理して仕事に行って、体をこわしちゃ何にもならない」
たしかにトシの言うとおりだ。体あっての仕事だ。今はおなかに赤ちゃんもいる。時には仕事より優先すべきこともあるのだ。授業のほうは先生方にお任せしよう。電話をかけ、1週間休める手はずを整えた。
自宅で休んでいる間、家事、育児のほとんどをトシが引き受けてくれた。ナツもアチャも事態を察したのか、いい子でパパと過ごしてくれた。
それにしても、このままお産になったらどうなるんだろう。ぎっくり腰の痛みと陣痛の痛みが同時にきたら…。想像するだけでぞっとする。なんとか治ってほしい。いや、絶対に治さなくちゃ。
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