トコちゃんベルト専門店 >  目次  私はドゥーラ(お産の付添人)(1)

第1回 「エコ・ベビー」の国で、新生活スタート!

自然と歴史の国スコットランドで、妊婦さんとそのファミリーの、妊娠から産後を見守る仕事、 それがドゥーラです。自身も幼い女の子のお母さんである、あきこさんの日々

コロコロと移り気な空を抱えた街

食べられる泥
この国の子どもたちは汚れる遊びが大好き。これはコーンスターチと水を混ぜただけの『食べられる泥』

大きなスーツケースを抱えてエジンバラのホテルに到着した午後は、雪が降っていた。
ローカルニュースによると、今年の寒さは特別だそう。地元の人々は「妙な天気だ」と口を揃えている。

あれから3週間が過ぎて、今や4月もなかばにさしかかろうというのに、ここスコットランドでは今日も雪がちらついている。
それは“雪”というより、あれっ?と手をかざした次の瞬間、雹に変わり、ほんの数分のうちにたちまち雨となり、気がつくと再び雪に戻っているという、私にとっては不思議な現象である。
エジンバラの第一印象は、とにかく寒く、コロコロと移り気な空を抱えた街となった。

5分も外で遊んでいると、たちまち氷のように冷たくなっていく娘の耳。その豆粒のような耳たぶをつまみながら、「この耳をすっぽり包んでくれる毛糸の帽子は一体どこで見つかるだろう。。。」と思っていると、お花見をすんでのところで逃したのはそれにしても惜しかった、と不意に日本が恋しくなる。まだ東京を離れてひと月もたっていないというのに、困ったものである。

ねぇ、おかあさん

2歳になる娘が、突然、
「ねぇおかあさん。こーたくんとぜんくんはどこ?」と運転中の私に向かってたずねてきた。日本と同じ左側通行とはいえ、ハンドルさばきもおぼつかず、それでもなんとか

「どこにいるかねえ」などと私がとぼけた受け答えをしていると、
「どこにもいないよぉーだっ」と返してきた。

2歳とはいえ、娘もよく解っているのだ。すでに日本から遠く離れた土地に私たちがやってきているということを。

片言の日本語を話しはじめたばかりの娘は、今、英語が解らずにフラストレーションを抱えているようだ。昼寝の時間やごはんの量も、日本にいる時より短く、少ない。私のほうも、愚図る彼女を一日中ベビースリングに入れて一人で不動産めぐりをしているせいか、首から肩にかけてがまるで鉛のようにカチカチだ。毎晩、あたたかいお風呂にしっかり浸かり、寝る前にはテルミー灸(温灸)で、娘の全身と自分の首まわりだけはほぐすようにしている。

とるものもとりあえず

そんな私たちにも、ついにホテルから抜け出す時がきた!

時間をかけて探した甲斐あって、ようやく気に入ったフラットが見つかったのだ。
明日は、いよいよ待ちに待った引越し。2006年1月の終わりに、夫の転勤が唐突に決まり、取るものもとりあえずやってきたイギリスだけれど、子連れで動きが鈍いとはいえ、入国して3週間で車も住む場所も決まったのだから、まあまあの滑り出しと言っていいのかもしれない。

明朝には不動産屋との正式な契約を取り交わし、フラットの鍵を受け取るのは昼ごろの予定だ。その数時間後に日本からの荷物が届くということだが、大小合わせて50個のダンボール群。雪崩のように次から次へと担ぎ込まれてくるであろうそれらの中味は、果たして無事だろうか?

とうもろこしの紙オムツ

土に還る紙オムツ
手前が土に還る紙オムツ。カプチーノ色で、ロゴマークもシンプル

ところで、The Independet という新聞に『エコ・ベビー』というタイトルで子育て最新情報特集が組まれていた。この国では相変わらずオーガニックブームが続いている。というよりブームが定着して、今は少しずつそれがスタンダードになりつつあるということだが、確かにこの国の環境負荷への認識は日本のそれよりも深いように思う。

感動したのは、日本から持ってきた紙オムツがなくなったので、地元のスーパーに行ったら、とうもろこしのセルロースからつくられたオーガニックのオムツが、パンパースなどの大手のすぐ横で堂々と肩を並べていたことだ。値段も大手のものと比べてそれほど高くは感じなかった。

市が布オムツを全面推奨

一方、布オムツも、エジンバラ市がゴミ減量(UK全体で毎日約800万枚のオムツが焼却されているという)を目的に、布オムツ使用を全面推奨しているということで、市に認定されている布オムツ業者による布オムツ40ポンド(約8千円)分無料お試しキャンペーンなども実施されている。せっかくの機会なので、引越しが片づいたら、私もこのキャンペーンを利用してみようと思っている。

例えば生ゴミを堆肥化するコンポスタは、4ポンド(800円)ほどで売られている。日本でも毎日フルに使っていたけれど、直径1mほどのシンプルなバケツ型コンポスタが手頃な値段で手に入るのは嬉しい。市によるゴミ回収は週に2回だそうだが、コンポスタに活躍してもらえば十分だろう。

そうそう、市内では、主要な道に沿って巨大なゴミ集積箱が設置されているのだが、これがびっくりするくらいにドデカイ。かる〜く牛1頭入ってしまうほどに見える。中心地区では特に決まったゴミ捨て場はなく、決まった曜日に、ドアの前や道の曲がり角に積み重ねておくらしい。

北国の人に囲まれて、子育て

オムツやゴミ捨てについて考えたり、電気や水道の手配もしなければと思うだけで、スコットランドでの新生活がいよいよ幕を開け、私のなかに春がやってきたような気持ちになる。きっと、どこの国であっても、その国の価値観や生活スタイルにあわせて、衣・食・住を楽しもうとしていくなかに、子育ての知恵やヒントが転がっているのかもしれない。

私にとっては、まだ真冬のような天候だけれど、それでも、娘の目線でよく見てみれば、可愛らしい花々が公園のあちこちに控えめながらも少しずつ咲き始めている。 この身を切るような冷たい風のなかに、すでに春を感じることのできる北国の人々に囲まれて、この先どんな子育て記を綴っていくことになるのだろう。

学生時代も含めて、海外生活は何度かしたことがあるけれど、異国の地で子育てをするのは初めてだ。夫婦だけで外国に住むのと違い、子連れでの海外移住は、何事につけ、負担や問題に感じることも多いだろう。でも、自分の属する文化圏外での育児体験は、苦労の多い分だけ、精神的に得るものも大きいような気がする。

娘はきっと、観光客として過去に数回訪れたことのあるイギリスに、母親になりたての私を、自然体で引き合わせてくれるキューピットに違いない。

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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/