第41回 アシュレーさんのお産 (3) 薬を使わないお産
先日お話を伺ったハワイ島出身のあるお母さんは以下のように言われました。
「私はあの時$450払って、一生つきまとう持病の腰痛を買わされました。
寒くなると、毎日、エピドュラル(無痛分娩の注射)の針を刺された箇所が、ピンポイントでツキンツキンと痛みます。古傷が痛むってまさにこのことですね。
私は慢性的な腰痛をわざわざ自分のお金で買ったんです。無知だったことが悔しくて、でも誰にも言えなくって、自分はなんて馬鹿だったんだろうと思うと、悔やんでも悔やみきれない思いでいっぱいです」
その方は、一人目のお産で、エピドュラルを使ったお産から帝王切開へと「介入の滝」を流れ落ち、二人目はVBACを希望したにもかかわらず、
「うちの病院では一人目が切られていれば、その後は一律に切ってもらっている」
と医師に言われ、自動的に帝王切開となりました。
彼女は今、薬の力を使わないお産のよさと、VBAC(帝王切開後の経膣分娩)の選択権について人々に伝えていますが、「すべての物事には表と裏があることを理解できない妊婦さんばかり」と嘆いていました。
前述の日本の産婦人科医の先生(現在はお産を取り扱っていない先生)が、脳生理学やラットによる研究結果を参照しながら、薬を使わないお産の仕組みについて講演する中で、以下のポイントを何度も強調されていました。
それは、哺乳類である限り、お産の時はエンドルフィンといった麻薬様物質や、母乳育児をスタートさせるためのオキシトシンが自然に脳内で放出されるため、適度にお産の辛い記憶はとばしてくれるんです、ということでした。
その講演の一部を以下、断片的ですが先生の言葉を借りるとこんな感じです。
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「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、ラットの研究でも明らかなとおり、お産での辛い記憶の定着を妨げる働きをしている。
産婦さんは、カクテル・オブ・ラブ・ホルモン(ミシェル・オダン博士)と呼ばれる何種ものホルモンの、ある一定のブレンド状態の渦中にあって、オーガズムに達することにもなぞらえることのできるほどに深い恍惚感や達成感、究極の至福感を味わう可能性がある。
そのような中で、産んだばかりの母親が、『たしか、さっきまで痛かったはずなのに、赤ちゃんの顔を見たら、不思議と苦しかったことを忘れてしまった』というのは当たり前のことで、これらはすべて自然の恵みです、
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陣痛を麻痺させる強力な薬品によって、自然に放出されるべきホルモンが放出されなければ、お産体験の一部始終は、理性的(左脳優位) な領域に留められてしまい、何年たっても記憶を思い起こし、反芻し、その時の辛さをいつまでたっても忘れられない。 そう考えると、前号の冒頭で触れたアシュレーさんの一人目のつらい出産体験は、納得のいくことです。
アシュレーさんの二人目以降のお産のように、VBACを試みるなど自分なりに納得のいくお産を体験された方は、本来分泌されるべき自前のホルモンが使われるおかげでお産もよりスムーズにいき、母乳育児も波に乗りやすいこともあり、充足感にあふれることが多いようです。そして、麻酔薬を使った前回のお産体験と自ら比較をして愕然とすることが多いのです。さらには、納得のいく体験によって、深い部分での記憶の書き換えが起こるのでしょうか、根本から‘癒された’と感じる方がたくさんいらっしゃいます。
まさに、前号の冒頭の、「すごいわね、体の記憶って」なのです。
アシュレーさんのように、楽しい記憶としてお産を思い出せるのは、とても幸せなことだと私は思います。 赤ちゃんとの出会いの日をワクワクしながら何度でも自らすすんで語ることができるというのは、そのまま、お母さん自身の子育てのベース確認であり、原点回帰できるような大切な証です。
仮に目の前の育児がしんどくて、行き詰ってしまっても、まるで自分だけの駆け込み寺が自分の生きている限りいつでも内側に存在している、お産は古今東西、そんな時空を超えた至高体験であり得たからこそ、人類は今まで脈々と続いてきたのだと思いま す。
これまで長い間お読み下さり本当に有難うございました。今後はこちらのサイトを卒業し、以下の自分のオフィシャルサイト上でブログを細々と書き続けていきますので、この先も宜しかったらフォローして下さい。
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https://nomadoula.wordpress.com/
<参考>
The Hidden Risk of Epidurals
http://www.mothering.com/community/a/the-hidden-risk-of-epidurals(英文)
助産師Sara Wickhamさんのリンク
http://www.sarawickham.com/questions-and-answers/what-is-the-successfailure-rate-of-epidurals
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東京の自宅に一時戻る。昔のまんま。やっぱりじぶんの家は最高! |
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木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/