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第40回 アシュレーさんのお産(2)無痛分娩と帝王切開


言ってもしかたがない…
開業助産師さんはケアする家庭にごく自然に溶けこむことのできるプロです

私の以前行った聞き取りでは、無痛分娩の体験後に、次のお産では無痛薬を使わない選択をした女性が多かったです。
そして、そういう選択をした方に詳しくお話を聞いてみると、何かしら不納得感の残る無痛分娩体験であったため、リピートしなかったとおっしゃる方がほとんどなのです。

中でも気になったのは、その気持ちや不納得感を、フィードバックとしてクリニックや病院に残した方は一人もいなかったということです。

今さら施設側に何か言っても時間が経っているから仕方がない。
みんな忙しくてどうせ親身に聞いてくれないだろう、、、。
麻酔薬が原因だという因果関係が立証できないから話すだけ無駄。

といった諦念が最初から感じられます。ただでさえ育児でてんてこ舞いの時期に、わざわざ余計なトラブルを抱えたくない、という気持ちはよく分かります。


封印したい思い出
産後の会陰の治癒にとても効果的な乾燥ハーブ
産後の会陰の治癒にとても効果的な乾燥ハーブ
陣痛がはじまったら鍋で煮出しはじめます
陣痛がはじまったら鍋で煮出しはじめます

「最初は薬効が感じられたのに、本当に必要な時にあまり効かなかった」、
「無痛にしたのに注射の針がズレていて、危険な状態だったのに謝罪が一切無かった」、

「麻痺している分、感覚がなく、リードされるまま思いっきりいきみ過ぎて、肛門近くまで裂けてしまった」
といった、現場で実際に起きたこと以外に、腰痛のような時間が経ってからじわじわと起きうるトラブルも含めて、本人にとっては封印したい思い出として記憶されているせいなのでしょう。

そして、せめてもの意思表示として、「無痛分娩を次のお産ではあえて避ける」という道を黙々と選んでいるのです。


高い帝王切開率
ベッド脇で丁寧に新生児チェックしてもらえます
ベッド脇で丁寧に新生児チェックしてもらえます

ここアメリカや、以前私が住んでいたUKのスコットランドなどでも、何年も前の無痛分娩体験を振り返りながら、なんとも口惜しそうにご自身の出産体験を吐露する現地のお母さんたちを私はみてきました。

目には数値として現れない何らかの心身のトラブルを無痛分娩で感じたからこそ、2度目、3度目、4度目のお産では、麻酔薬を使わないことを選択した。そんな母親たちの貴重な体験談を私たちは今後もっと慎重に、丁寧に聴いていく必要があるのかもしれません。

なぜなら、無痛分娩を選択した時点で、帝王切開率が一気に跳ね上がるからです。

WHOが帝王切開率は15%程度に抑えられるべきであると提言しているにも関わらず、アメリカ、テキサス州ヒューストンの私立病院などでは、切開率が軒並み50%という現在に身震いを感じるのは私だけでしょうか。


大きな影のリスク

経腟分娩によって微生物(腸内フローラ、腸内バクテリア、マイクロバイオームなどと呼ばれる)を母親から赤ちゃんに移行できないと、自己免疫が整わず、生涯にわたって多くの疾患に悩まされる可能性を高めることは研究者の間で広く調査されています。

にわかには見えないそういった帝王切開の大きな影のリスクを考えると、自分が受ける周産期医療ケアについて、いったん立ち止まって考えを整理する時空間が、忙しい時代の妊婦さんにとって必要なことを痛感しています。




※ちなみに、周産期医療の質の高さで評判のよい病院でさえも、以下のような帝王切開率です(数年前のデータなので少し古いですが)。 Texas Woman’s Hospital-48%, Memorial Hermann Memorial City-44%,Memorial Hermann Med Center-39%, St.Luke’s Texas Children’s-34%, MemorialHermann Southwest-30%


水平線に沈んでいく夕陽を眺めるのが大好きです
水平線に沈んでいく夕陽を眺めるのが大好きです
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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/