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第8回 お産とは?------英語で読む、日本語で読む

あらためて読んだ『お産椅子への旅』

日本からごっそり本を持ってきた。

06年の3月、東京の家を引き上げるにあたって、運送会社用に品物リストをつくった時(保険のためとはいえこれが面倒くさくて、スプーン10本何千円相当とか、Tシャツ20枚およそ何千円とか、いちいち記入しなくてはならない)、ため息をつきながら一冊ずつ数えたところ、約1000冊あった。

かなり捨てて、かなり古本屋にまわして、かなり屋根裏部屋に残して、それでもどうしてもスコットランドまで持っていきたい本が1000冊である。あの時は、『こんなに持って行ってもいいんだろうか。。。』と考えたけれど、送ってよかった。外国にいると、ときたま日本語がたまらなく恋しくなる。

最近あらためて読んで面白かったのは、『お産椅子への旅』(長谷川まゆ帆 岩波書店)だ。著者は東大の先生で、今やほとんどの人が聞いたことも見たこともない『お産椅子』をめぐる考察がまとめられている。

『自分らしさ』に水をやる

スコットランドにも巨石文明が。。。。渦巻きは普遍的な命の象徴?

座って産むためのスツールが、なぜ16〜7世紀にヨーロッパ中に伝播し、そして19世紀に消えていったのか?

筆者が旅を重ねつつ、文化人類学の視座から、‘新しい感覚や感受性を生み出していく『もの』と身体の力学、ダイナミズムに目を開かれ(本文引用)’ていくその過程は、普段なにげなく在る周囲の『もの』と自分との関係を今一度考えさせるものだった。

一冊本を読むと、またひとつ世界が開けたような気持ちになる。

昼間、英語を操ろうと頑張ってみても、自分が現地の小中学生レベルに思えて情けなくなることもあるが、夜なべして1冊を日本語で読みきると、『自分らしさ』のようなものに水をやった気がしてスーッとしたりする。

『自分らしさ』とは、いかに、言葉をふくめた『文化』に依存しているものかと思ってしまう。

文化人類学からお産を学ぶ

それにしても、日本から持ってきたお産関係の本は、文化人類学系に偏っている。それも医療人類学関連ばかりだ。急激な医療化が人々の生活にどのような影響を与えてきたのかを考える医療人類学において、お産とはわかりやすい研究対象のひとつなのだ。

今月でちょうど2歳半になる娘を家で産んで以来、お産とはさまざまな可能性を秘めたものだと思うようになった私だが、文化人類学の本を読めば読むほど、ここUKはお産を学ぶにはもってこいの場所だと思う。

健康に特に問題のない女性で、正常産が予想される場合、しかるべき介助者(ミッドワイフ)とのホームバースはより安全でより安楽なものになる可能性が高いといったことも、日本より認識されているようだ。

「産前産後クラス」のようなもの

お産は私にとって、広大無辺な宇宙の営みに自分を重ねて、最終的には宇宙そのものとひとつになっていくような、深く大きな体験だった。

ホームバースの可能性について詳しく知ってみたいと思いつつも、日本にいたときは、それを裏づけるような情報源を自分の力不足から見つけることができず、もどかしい思いをしていたこともある(津田塾大学の三砂ちづる教授の『原身体経験』の話は、目を見開かれるような本当に貴重なものだった)。それが、スコットランドに移って以来、データとの接触が少しずつながらも増えてきた。

30年以上ホームバースの利点について語ってきたナディーン・エドワード博士も、スコットランドの方だ。博士は、お産の世界で有名なAIMS(お産における医療消費者センターのような組織)の創始者の一人だが、現在、エジンバラ市内でBRC(バース・リソース・センター)という施設を運営している。妊娠した女性や、赤ちゃんを抱えたおかあさんたちが産前産後クラスに通うスクールのようなところで、その活動内容に私はこころから共感した。

ナディーン・エドワード博士の話

赤いチェックのストール
公園に赤いチェックのストールが。なんとなく秋の気配を感じて心が静まる

『産みゆく女性が、妊娠、出産、育児を通して、自分のこととして起こるひとつひとつの出来事の意味をていねいに考え、本当の意味で、物事を主体的に判断していくプロセスで、真の自分と出遭っていけるようサポートする』というのは、口で言うほど簡単なことではない。

『こころと身体のつながりはとても大切です』
先月お嬢さんのホームバースに付き添ったばかりのエドワード博士は言う。

『今まで、数えきれないほど多くの女性たちの声を聴いてきましたけど、お産とは身体的、精神的であるばかりか、特にその人のスピリチュアリティーに大きく影響を与えるものです。お産は、特にホームバースは、ルーティンケアや不必要な医療介入から身を守り、一対一のケアを受けられるという点で、産む女性の自律性を高める可能性に満ちています。豊かな自律性を生むお産とは、自律的な助産師の存在によって決まっていくものです』と語る。

自律性----肉体的、精神的、霊的な気づきまでも

この自律性というのが興味深い。単に肉体レベルの話ではなく、人生を豊かに生きていくうえで必要な判断力、決断力を高めたり、霊的な気づきまでをも含んでいるというからだ。

どうやらここスコットランドでは、ただの『お産好き』だった私のような者にとって、想像以上にいろいろなことを学ぶ機会がありそうだ。今の私の英語レベルでは正直きついが、エドワード博士おすすめの専門書も原書でいろいろと読んでいければなぁと思っている。

えっ?日本語の本ばかり読んでいるうちはダメって?

ハイそのとおり。冒頭にも書いたとおり、今はまだ日本語の本ばかり手にとってしまうけど、出来るだけ英語も読むようにしなければなーと。現状では、英文読解だけでアップアップで、行間を読み取ったり、読後感に浸る余裕は全然ないから。

目下の目標は、英語の本を読んでも『自分らしさ』に水をやったような清々しい気分になれること、かな。


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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/