トコちゃんベルト専門店  >  目次  >  私はドゥーラ(お産の付添人)(18)

妊娠、授乳や出産シーンを表現したアート。ルイーズ・ブルジョワの作品展で

アイスクリームでつながっている仲(?)

お気に入りの木
お気に入りの木は滑り台になったり、ハンモックになったり。

ボタニックガーデン(植物園)は、エジンバラっ子の憩いの場。

お疲れのこころと体を、緑色パワー満タンにしてもらえるので、私たちも週に1度はリチャージに通う。

この夏4歳半になる娘の週末の楽しみは、門の前の駐車場にたいてい留まっている屋台で、イチゴのジェラートをお父さんに買ってもらうこと。植物園が近づくと、キョロキョロとバンを探す。

恥ずかしいくらいの大声で「あっ、来てるよおー!買ってえー!」と叫ぶと、お父さんはすみやかに財布を取り出してスタンバイ。5年前に亡くなった実父にはほとんど見ることのなかった、‘いかにも週末の顔’をする夫の隣りで私は、『アイスクリームでつながっている仲もいいんだよな〜』と、この時ばかりは見て見ぬフリを決めている。

さて園内に入って、まずはその日のキッズイベントをチェック。鳥の餌付けにエコ・バッグづくり、いつもいろいろ満載だ。ショップ、カフェ、イベントホールにアートギャラリーもあるので、ここに来ると半日くらいはあっという間に過ぎていく。

今年96歳の世界的アーティスト

おともだちのリス君
おともだちのリス君に今日もごあいさつ

この植物園のアートギャラリーで今、出産ケア関係者の間でひそかに話題になっているのが、ルイーズ・ブルジョワの作品展。

彼女はフランス出身のアメリカ人彫刻家として世界的に知られている。六本木ヒルズに出現した巨大なクモのオブジェをデザインしたおばあさん、と言ったら思い出す読者も多いのではないだろうか。

今年96歳になる彼女の今回の新作が、なぜ、お産関係者の興味をそそるのかというと、それが、生々しく妊娠、授乳や出産シーンを描き出しているからだ。

女性性の源泉を感じる、一連の作品

人懐っこいリス君
ほんとうに人懐っこいリス君。
ベンチを一緒にシェア

ルイーズの独白インタビューや、創作風景を切り取ったコラージュのようなドキュメンタリーフィルムも上映されていて、私は作品以上に、彼女その人の生き方に惹きつけられた。

養子を引き取った直後に、子どもを授かるという人生の廻り合わせついて本人も語っているとおり、それはけっして平坦な人生ではなかった。

ここ数年の映像には、母として、妻として、そして娘としての自分を、かたちや主義にとらわれず、あるがままに作品に流し込む彼女がリアルに浮かび上がっていた。

そこに、今回の「NATURE STUDY」と銘打った一連の新作品を産み出す女性性の源泉を感じた。

花になった、産む女性と赤ちゃん

ルイーズ
蘭となってしまう出産シーン、産む女性と生まれるあかちゃんとのコラボ!

生まれてくる赤ちゃんと、産む女性が、一輪の花と昇華してしまう不思議な絵。

産む存在と、生まれてくる存在のコラボ。もうこれしかない、と思った。

明日のお産を考える私にとって、滋養となる一枚。産みゆく姿は、古今東西美しい!そう純粋に感動できる。

くりかえし、くりかえし描かれる受胎の絵からは、セクシュアリティーというより、植物の交配のようなたんたんとした営みを支える生命力が感じられた。

アートとは、場と一体となって完成していくもの

ところで、アートとは、周囲の環境に大きく影響されることを今回あらためて思った。やはり作品とは、観る人間も含めて、その場に在るすべてのものと一体となって、瞬時に完成しつつある進行形のものなのかもしれない。

一見生々しい出産シーンを描いた彼女の作品から、植物的な静の気配をも受け取ることができたのは、おそらくギャラリーには、私たち以外には人がおらず、窓からは大木が見え、さんさんと光が差し込んでいたといったファクターが揃った結果なのだろう。

お産もまさに、そのようなものだと思う。どういうことかと言うと・・・その話は次回に。


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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/