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第19回 母体は地球の一部であり、花一本のようにはかなく、同時に、すでに完全である
----ルイーズのアートに感じること

‘変革につながるお産’

アートとは、周囲の環境に大きく影響されることを今回あらためて思った・・・・・と、前回の最後に書いた。

お産もまさに、そのようなものだと思う。

‘Transformative experience’、つまり「変革・変容につながる体験」となりうる可能性をつねにはらんでいる。

敬愛する三砂ちづる先生(注1)が、エジンバラの我が家に遊びにいらして下さった折にお話して下さったが、‘変革につながるお産’には、いくつかの必要条件というか、因子があるという。たとえばそこに、‘ほの暗い光’や、‘適度な湿度’と聞くと、お産とは、産む環境によって大きく影響されるものなのだと納得せずにいられない。

近代化によって、お産の何が失われたのか

いつまでも夜の明るいこの季節
いつまでも夜の明るいこの季節、少し自転車で走らせるとこんなステキな場所と遭遇

時代が変わって、今はほとんどのお産が施設内で行われている。いかに効率よく産むか、産ませるか、ばかりが注目されてきた近代化以降のお産。個人のお産体験は、医療化の波によって、どのような影響を受けてきたのだろうか。

欧米を中心とした世界では、一部のこころある助産師や医師といったケア・ギバーズと、人類学者注2や、社会学者のような学者たち、そして、産みゆく女性たちの3者が一体となって、ここ数十年間、継続的に、お産における産婦の‘autonomy’(←この意味は後で書きます)を認めようとする動きがみられる。お名前を挙げはじめるときりがないが、日本にも、それぞれの立場ですばらしい活動をされている方が数多い。

そこまでして尊重されなければならないお産のautonomyとは、いったい何?―

実はそれこそが、お産の勉強をはじめて以来、私の一番の関心事である。

まだ日本語にきちんと訳されきれていない感のある言葉なので、つい慎重になってしまうが、辞書には、‘自律性’、‘自主性’‘自治’で載っている。

お産は、こころとからだを再統合する癒しのプロセス

夜が怖くない
夜が怖くない、暗闇にならない。
夜更けに自転車に乗るのが楽しくなります。
ちなみにこれは夜の10時

そもそも私たちは、autonomous(autonomyの形容詞)な存在であるはずなのに、いつしか、ヒトがヒトとして未来に続いていくための、最もリプロダクティブな営みであるはずのお産において、autonomyを失ってしまったというのは、どういうことを意味するのか。

今の私にとってautonomousなお産、とは、周囲によって方向づけられることなく、産婦本人の持てる力を余すところなく発揮できるようなお産のこと。

そして結果、思いもしなかった変容を体験することも含まれるかもしれない。

それは、こころとからだを再統合してくれる癒しのプロセスでもあると個人的なスタンスで確信している。

96歳のアーティストが描く、妊娠・出産・授乳シーンは・・・

人生の遍歴を経た老婆の描く妊娠・出産・授乳シーンは、つねに相反している。もろくて、力強い。ぎこちなくて、美しい。

純粋に、母体が地球の一部であり、花一本のようにはかなく、同時に、すでに完全であることを思い出させてくれる。まるで人災・天災で傷ついた大地が、それでも再び萌え、自らの力で癒えようと、意識なき意識を絶えず働かせているように。


創作活動を続けるルイーズ 半球のガラスの中で納められる出産シーン
絵画、立体、彫刻と、カタチにいっさいとらわれず、創作活動を続けるルイーズ
半球のガラスの中で納められる出産シーン。360度、絶えず観察される母子、という感じがした





(注1)三砂ちづる(みさご ちづる)
津田塾大学国際関係学科教授。専門はリプロダクティブヘルスを中心とする疫学。著書に、『月の小屋』(毎日新聞社)、『コミットメントの力』(NTT出版)、「疫学への招待」(医学書院)、「昔の女性はできていた」(宝島社)、「オニババ化する女たち」(光文社新書)、『 きものとからだ」(バジリコ)、ほか多数


(注2)
たとえば医療人類学の世界では、ロビー・デービス・フロイドや、エミリー・マーティンが女性のエンパワメントにつながる研究を残していて興味深い。




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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/