第24回 ロシア正教徒である友人の、大自然の営みとシンクロする出産
(前編) 私たちは海から来たのだから
サハリンの自宅2階の寝室からみた懐かしい光景。音が無く、おごそかな気持ちになるほど静かだった。冬の間は毎日こんな感じで雪に完全に降りこめられていた |
今になって振り返ってみて、たった一年間のロシアでの大切な出会いといえば、ロシア人アナさんとの出会いだ。お互いの子どもがクラスメートだったので、学校活動を通じて知り合ったのだが、モスクワ出身の彼女は、現在4人の子供のお母さんだ。
ご主人の転勤で現在サハリンに住んでいるが、1人目の病院出産で‘ひどい目に遭った’ため、2人目はモスクワで自宅出産。さらに3人目は開業助産師さんに伴われ、黒海の岸辺での海中出産、というめずらしい体験をもつ。
両親ともに理数系の大学教授ということだが、彼女自身も、いつも冷静で頭脳明晰。いわゆる学者タイプのアナさん。自分で疑問に思うと、丁寧に調べて、考えて、きちんと自分なりの答えを出していく努力家タイプ。
でも、物静かで穏やかな彼女の、一体どこからマジョリティーとは違う価値観を選ぶエネルギーが湧き上がってくるのだろう。
休暇を利用してロシアから東京の我が家に泊まりに来るほど仲良くなり、何度もお互いのサハリンの家を行き来し合って家族ぐるみでお付き合いをさせて頂くうちに、少しずつ彼女のことがみえてきた。
キッチンで、パン生地にアプリコットの煮ものを詰めながら、淡々とした口調で、当時(今から5年ほど前)子宮筋腫を患いながらも妊娠を継続し、無事に3人目を海中出産した経緯について語ってくれた。
アナさん夫婦は敬虔なロシア正教徒なので、水とは、洗礼時に聖水をかけるように、命の誕生において象徴的な要素として働くことは、私でもすぐに理解できた。
しかし、さらに踏み込んで、彼女の考え方の根底にある、キリスト教という枠にとどまらない大地の地母神への深い信頼感に触れたとき、なぜ彼女たちが、潮の満ち引きといった大自然の営みとシンクロしながら産んでみたかったのかが、大きなメッセージとしてダイレクトに伝わってきた。
‘私たちは海から来たのだから、故郷で産みたいというのは自然なこと’さらっと言ってのける。口で言うのと、実際にするのとではまったく違う。
|
|
前へ | 次へ |
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/