第24回 ロシア正教徒である友人の、大自然の営みとシンクロする出産
(後編) リゾートのような、農家のような
吹雪がひどいと一晩でこんなことに。登校前に我が家の玄関アプローチで娘をパチリッ! |
スコットランドにいた頃、世界のお産を扱う教育ビデオなどで、黒海の波打ち際で産むロシア人女性たちについての映像は観ていたのだが、アナさんというごく身近な友人の思い出のアルバムを眼にして、私は目からウロコの落ちる思いがした。
貴重な写真の一枚ずつにコメントしながら彼女は、いかに、海が彼女を癒してくれたかについて語ってくれた。ほどよく生温かい水温になる夏場の海中出産は期間限定なので、‘たまたまタイミングの合った自分はとても運がよかった’とか、‘潮水のおかげで産後の癒えがすごく早くて驚いた’とか。聞きしに勝るとはこのことである。
上の二人の子供たちとご主人が、リゾートを満喫中といった笑顔で砂浜に寝そべっている写真もある。夏の間の数カ月間、海辺にテントを張って産婦さんを迎え入れる開業助産師たちも、皆こんがりと日焼けしていて顔には農婦のような深い皺が刻まれている。テントの裏手には畑もあるので、実際、農家のような暮らしをみんなで営みながらそれぞれのお産に備えるのだろう。
海水できれいに洗われた胎盤。生後数日の赤ちゃんとの海水浴。どの写真にも、大きな夕陽や朝陽がキラキラと弾けていて、今まで見たどのお産の写真とも違う大自然のエネルギーに満ち満ちている。ご主人の表情のなんとすがすがしいこと。アナさんの笑顔も本当に生き生きしている。
しかしそこに至るまで、彼女は周囲からも家族からもまったく理解されずにとても傷ついてきたという。首都モスクワでもホームバースはまだまだ圧倒的少数派で、いまだに理解してもらえていないと言う。
そんな彼女に刺激され、私のなかで海中出産について詳しく調べてみたいという興味が湧いてきたころ、我が家のアメリカ行きがバタバタと決まり、ロシアを去ることになってしまった。しばらくしてから、アナは再び妊娠し、サハリンの自宅でご主人と3人の子供たちに囲まれて4人目を出産したという。 もう少し長く住んで、最後にアナのお産のお手伝いをしたかったなぁ。 それだけが今も名残惜しいロシアである。
いつもどこかはにかんだ表情のアナ。物静かにピロシキを焼く彼女の横顔が懐かしい。
次回は、ここヒューストンでこの半年間に出逢った女性たちについて書いてみたい。
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木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/