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第26回 アメリカ・テキサスで。医療化されたお産は安全なのか、それとも危険なのか(前編)


私がホームバースを選んだわけ
灼熱のテキサス、カウボーイの州!
寒いロシアからやってきました、灼熱のテキサス、カウボーイの州!

前回ご紹介したへザーさんのようなホームバースマムたちの自助グループには、キリスト教と中心とした確固たる共同体としての信念があり、そこには現代アメリカの過度に医療化されたお産に対する恐怖心すら見受けられる。

一方の私は、思い返してみると、直感とも呼ぶべき説明のつかない理由は多少あったにせよ、‘神がつくった体を信じる。。。’というよりは、実際に世界中で日々行われている出産に関する研究から導き出された医学的根拠に納得してホームバースを選んだ。


安産になりやすい要因
アルコサンティ
アリゾナ州にあるアルコサンティという理想郷を見学

安産になりやすい要因を調べたある研究では、産婦自身のよく見知った環境で、ほんのりと薄暗く、ほどよく湿っていて、よりプライベートな(性の営みが行えるような)空間でお産をしたほうが難産になりにくいとしていた。

誰かに産ませてもらったのではなく、自分自身で産んだと思えるようなお産は、産後もさまざまな面でスムーズに物事が進むということも知られている。


産後の回復、母乳育児等への影響
美しい鐘の音
アルコサンティにて日々作られているえも言われぬ美しい鐘の音

たとえば、少し調べるだけで、産後の回復のよいこと(身体的側面だけではなく、うつ病になる確率についても低い)や母乳育児がスムーズにいき、産後の家族関係もさらに絆が強くなるといったデータに出会う。産んでおしまいではない長い子育ての道のりを考えると、これらは重要なポイントだ。

妊娠中から問題のない健康な妊婦さんにとっては、過度に管理された施設分娩より、自分のテリトリー内=家庭でのほうが、お産がいつの間にかこじれてしまう確率は少ない、そして産後にもよい、という結論に無理なくいきつくことになる。


近代産科医療は、通過儀礼?
人気スポット、セドナ
アルコサンティからアリゾナ一の人気スポット、セドナへ。 街のシンボルのひとつ、このベルロックと呼ばれる岩は母なる子宮のエネルギーを出しているとか

こういうことを書いていて私が思い出すのは、「Birth as an American rite of passage」という90年代初頭に出版された医療人類学者Robbie E. Davis-Floyd による書物である。本当にインパクトのある本だった。

ホームバース推進派としてデービス・フロイド博士が、医療化の進み過ぎたアメリカの近代産科医療のあり方を、‘テクノクラティックなお産’における通過儀礼として例えた視点は、今でも斬新で興味深い。


強大な信仰‘医療崇拝’の時代

つまり、原始時代から人は火や山を崇めてきた。その後、西洋社会やイスラームの世界などでは、アッラーやイエスなど一神教の神を祭って世界の政治や社会をとりまとめてきた。

そして現代こそ、かつてない強大な信仰、‘医療崇拝’の時代であり、私たちはこの世に誕生した時、いや、する前から、息を引き取るまでのすべての命の在りようを医療に託し、この新しい宗教が執り行う数々の儀礼(システム)のなかで、本人が意識しようとしまいと、立派に信者の役を果たしているというものだ。

本の中では、司祭が衣をまとうように、医師が病院内では白衣を着たり、産婦には青い服を被せたり、会陰切開を施す様子が、さまざまな価値体系(宗教)における通過儀礼と酷似している点が細かく分析されていて、学術書とはいえ、読んでいて引き込まれる。


グランドキャニオン
グランドキャニオンの一部。気の遠くなるほど大きな岸壁を横切るヒコ―キ雲

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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/