第26回 アメリカ・テキサスで。医療化されたお産は安全なのか、それとも危険なのか(後編)
さて、3人目に紹介しておきたいのは、イタリア人のエルダさん(仮名)。帝王切開で早目に出してもらったという2番目のお子さんにその後、耳の難病が見つかり、今も治療を続けている。3人のお子さんを全員とも計画帝王切開で産み、「アメリカにいて本当によかった」と夫婦で胸をなでおろしている。
ここには、エルダさんのように医療の力が積極的に必要なケースには、高度な医療サポートが存在する。
開業助産師の一人が言っていた。 ‘テキサスで統合医療を求めても肩すかしをくらうことばかりだ。でも、切った貼ったの外科的なトリートメントはこの国最高の水準にある’と。
だから、帝王切開率も高くなってしまうのだろうか。上手に切ってくれるのなら、さっさと終わる帝王切開のほうが楽かも。。。お母さんたちがそんな風に考えやすい土壌のあることに専門家は警鐘を鳴らす。
産婦のこころと体が花開くように熟してゆくプロセスを待つことができない、現代のアメリカのお産。
‘産婦のため’とは言っても、基本的に、お産を合理的に進ませ(積極的に促進剤を使うなど)ひとつのお産にかける時間を短縮することで経営が成り立つという病院の基本システム。
帝王切開ともなると、病院に入る収益は軽く数割増えるという。緊急帝王切開になったある方が、‘数カ月後に病院から請求書が届いて、見たら15000ドル(およそ120万円)で腰が抜けた。保険に加入していても半分は自己負担。どうしてこんなに高額なのに、政府がサポートしてくれないのだろう。。。’と漏らしていた。
アメリカの医療保険会社も千差万別だろうが、大抵は、決して少なくない掛け金(カバーされる内容によるが、例えば家族3人で400ドル〜800ドル程度)を毎月払い続けなければならない。だが、多くの人々にとって、その見返りは期待するほど頼り甲斐のあるものではなさそうだ。
不必要なルーティン介入をできる限り控え、じっと産婦を見守ってくれるような病院は、病院としてあらかじめ存続できない、そう言っても過言ではない現代の病院システム。そのひずみの合間で、進み過ぎた医療化のツケを、健康な妊産婦たちが今、払わされている。
先週参加したアムネスティー・インターナショナル主催の勉強会では、テキサス州地元の疫学者達が、アメリカで出産する妊産婦の死亡するリスクは、世界49番目と先進国のなかで最も高いことを繰り返し述べていた。
ドキュメンタリー映画‘Business of being born’のなかでは、ビジネス優位のこの国の医療体制が詳しく紹介されている。
お産の医療化、ビジネス化は、妊産婦死亡のリスクに影響を与えているだろうか。リスク低減に貢献はしないだろうか。
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木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/