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第30回 娘とともにお産への思いを高めた、11回の妊婦健診


娘が下校するのを待って健診を?
ハンモック
デンマーク人の兄弟が遊びにやってきた。我が家のハンモックを取り合いに!男の子って本当に元気いっぱい!

2011年1月から8月までの計11回(‘顔合わせ’を加えると合計12回)の妊婦健診の初回で、最も印象に残っているのは、助産師のサンドラさんに「娘さんが小学校から戻るのは何時?」と聞かれたことだ。

やっぱり子ども抜きのほうが静かでいいからかなぁと思い、「午後3時ごろです」と私が答えると、「じゃあ娘さんを待って、3時半からにしましょう」と予想外のことを言う。

ええっ!


だって、お産は日常生活の延長だから

でも蒸し暑いヒューストンでは毎日帰宅してから即行でシャワーかお風呂に入らせているし、その後はおやつの時間だし、宿題でもバタバタするし。。。う〜んどうしよう。
第一、 娘がいると私自身が健診に集中できないかも。。。

そんなこちらの動揺が伝わったのだろう、私の気持ちを見抜いたサンドラさんはニコッと笑った。‘だって、お産も、お産の準備も、すべて日常生活の延長でしょうが。いいお産にしていくためのプロセスはもう始まってるのよ。家族みんなを巻き込んでいきましょうよ’

そんな風に言われてみてはじめて、妊婦健診にできるだけ早いうちから子どもを同席させるか、させないかが、お産にとってどれだけ重要かが私にもみえてきた。


出産場面で、小さな子にも役割がある
ヒューストンのアーティストから購入した花器
震災チャリティーでヒューストンのアーティストから購入した花器と、面白い形のとっくりとおちょこのセット

サンドラさんは言う。

赤ちゃんが出てくる時に、上の子は、起きているか、眠っているかは分からない。けれど、立ち会う可能性が少しでもあるのなら、その子にはお産の流れについてそれなりに学んでおいてほしい、と。

なぜなら、その場での、その子なりの役割が必ずあるからだという。なるほど。たとえ2歳くらいでも、絵を見せたり、くりかえし物語のように伝えておけば、いきなり出産場面にワープするのではなく、時間をかけてこころの準備を整えることができる。また、サンドラさんの経験から、小さな子ほど敏感で、時に冷静で、大人以上に自分がその場でどう振る舞えばよいのかきちんと分かっているそうだ。


命の営みについて娘と一緒に学ぶこと
大好きな花チューリップ
私の大好きな花チューリップ。ダイニングの窓辺に置いてあげると花がなんだか喜んでいるみたい

というわけで、数え上げたらキリのないさまざまな理由から、妊婦健診に娘を毎回参加させていくことが決まった。一緒に命の営みについて学んでいくことは、赤ちゃんを待ち遠しく思う娘にとっても、私にとっても、生まれてくる赤ちゃんにしても、きっといいに違いない。。。そんな思いがけず一気に固まった気持ちをサンドラさんに伝えると、ウィンクしながらこう言った。

‘実は私(サンドラさん)にとってもそのほうがいいのよ’
‘えっ?’と聞き返すと、


娘さんはきっと立派なアシスタントになるよ

‘だってお産の当日に一から子どもに説明しなくていいでしょ。お産自体も安産になる気がするわ。もし上の子が怖がって泣いたりすると、陣痛中、産婦さんは無理して強い母を演じたり、集中が途切れちゃったりするもの。

それにこんなことは考えたくないけど、万が一緊急で病院へ行くことになってご主人があなたにつきっきりでも、私と子どもとの関係が出来ているとすべてがスムースだと思わない?あなただって安心でしょう。
ちゃんと準備してきた子がお産に立ち会ってくれると本当に実り豊かだよー。見ててごらん、きっと娘さんは立派なアシスタントになるよ’と言ってくれるのだ。


学校では得られない、生きた学び
金魚
ジャパン・フェスティバルでは震災の募金集めのお手伝い。娘と金魚すくいをしたら、家族が一匹増えることに

それから毎回の健診のたびに、7歳の娘に、優しく丁寧に、赤ちゃんの出てくる手順や産後の母体の養生がいかに大切かを教えてくれたサンドラさん。

娘は、同席できることをとても誇らしく思っているようで、‘今度はいつ?’‘早く健診の日こないかな’‘次回はもっと上手にビデオ撮ってあげるね’と心待ちにするようになっていった。
私の血圧を計測する時に、自分も一緒に測ってもらうのも恒例となった。血液検査では、試験管に入ると刻一刻と色の変わっていく血液の様子をつぶさに観察しながら、サンドラさんの説明に生き生きとした表情で聞き入っていた。

11回の妊婦健診に同席して、学校では決して学ぶことのできない生きた学びを娘は得たようだ。

こうして娘は、私と同じ歩幅で、少しずつ大きくなる赤ちゃんの心音に耳を傾け、妊婦本人でないと見過ごしがちなささやかなことに一緒に感動してくれながら、お産への想いを高めていったのだ。


サンアントニオのシーワールド
サンアントニオのシーワールドで。イルカは私にとって人生の大先輩。小笠原で一緒に泳いだ日々が懐かしい



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著者プロフィール
木村章鼓(きむら あきこ)
英国在住のドゥーラ&バースファシリテーター
エジンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士
約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母
「ペリネイタルケア」(メディカ出版)にて「ドゥーラからの国際便」を連載中
HP http://nomadoula.wordpress.com/