3人目がやってきた!

第19回 足の間からチビスケを自分で抱き上げた。生まれた!(39週/出産)

陣痛の間隔は10分弱

助産院の居間
助産院の居間ですっかりくつろいでいるナツ。ヨーコはすでに風呂場

夕方5時半、助産院に電話を入れる。
ヨーコ「ネモトです。陣痛始まりました」
電話に出たのはスタッフの助産婦さん。自宅出産だと思っているのだろう。
助産婦さん「もう(助産婦が)そちらに行ったほうがいいですか」
ヨーコ「いえ、家族みんな一緒にいるので、これから助産院へ伺おうと思います」

こう言うと事情を察してくれたようだ。
助産婦さん「分かりました。(陣痛の)間隔はどのくらいですか」
ヨーコ「10分弱です」
助産婦さん「気をつけていらしてくださいね」

助産院に到着すると、用意されていた部屋に荷物を置く。4年前にアチャを産んだ部屋だ。赤ちゃんの心音を確認する。チビスケは元気だ。

お風呂で産みたくなるかも?

助産婦さん「お風呂入る?」
ヨーコ「入ります」

お風呂を用意してもらっている間にトイレを済ませておこう。お産の後っておしっこが出にくいらしい。ナツのとき、産んだ後おしっこがしたいのにうまくできなくて、半日つらかった。ナツとアチャを産んだときの記憶をたどりながら「こうしよう」「こうしたい」というのを1つ1つやっていこう。

助産婦さん「お風呂の用意ができたよ。すぐ入る?」
ヨーコ「入ろうかな。でも入ったらもう出られないかも」

陣痛の間隔は5分。今お風呂に入ったら、そのままお風呂で産みたくなる気がした。 体をささっと洗ってから湯船につかる。風呂のフタに前のめりにもたれかかるようにしてリラックス。陣痛がやってくると助産婦さんが腰をさすってくれる。私は「フー、フー」と声を出して呼吸する。

四つんばいになって内診

風呂場での様子
風呂場での様子。チビスケ見えるかな。産むときもこんな格好で産みました

「ちょっと内診してみようか」と助産婦さん。浴槽の中で四つんばいになって内診。
ヨーコ「いたた! 痛いでーす!」
助産婦さん「ほら、ここ、括約筋(かつやくきん)が全然開いてないよ。ここが開かないと生まれないよ。ここ開いてごらん」

肛門括約筋のことだ。赤ちゃんを産むときはウンチをするように体を開きなさいと助産婦さんが言っていたことを思い出した。余計な力を抜いて体を開放してやらないといけない。陣痛の波にあわせて助産婦さんと「ひらけー、ひらけー」とおまじない(!)を唱える。産道が開いていく感じをイメージする。

ナツはときどき風呂場にやってきては出て行く。トシもときどきのぞきにくる。アチャはあまり顔を出さない。
ヨーコ「アチャは何してるの?」
トシ「テレビ見てるよ」

アチャは、大胆なところと繊細なところをもちあわせている不思議な子だ。彼女なりの方法でチビスケの誕生を迎えようとしているのかな。

同じ格好でずっといると動けなくなりそうなので、浴槽の中で仰向けになったりうつ伏せになったりしていたが、ちょっと気分を変えてみたくて立ち上がってみる。助産婦さんに体を支えてもらってよっこらしょ。おなかがドーンと重い。普段は気にならないけど、重力ってほんとうにあるんだなあと思う。陣痛が来るとチビスケが産道に向かって下りてくる感じが分かる。

「家族みんながいて、幸せだね」

陣痛もかなり進んできた。
トシ「ナツー、アチャー、おいでー! もうすぐ生まれるよー」
ナツは風呂場の奥を陣取って、お茶を口に運んでくれたり、背中をさすってくれたりしている。トシはカメラ片手に撮影係。アチャも遅れてやってきて、ナツのとなりについた。私が手を伸ばすとアチャはお茶を渡してくれた。一口飲む。力が沸いてくる感じがした。

助産婦さんが言った。「家族みんながいて、幸せだね」
本当にそうだと思った。私はこんなふうにチビスケを産みたかったのだ。チビスケ、もう少しだよ。がんばれー!

また陣痛が来て、そばにいたアチャの手をぎゅーっと握った。こんなに強く握るとアチャの手がこわれてしまうのではないかと思ったけれど、アチャは痛いとも言わず、そのままでいた。

チビスケがだいぶ下りてきた。四つんばいの格好で、おへその先にある産道に右手を伸ばしてみる。つるっとした感覚。チビスケの頭だ。
ヨーコ「ナツも触ってごらん」
助産婦さんに導いてもらってナツも産道に手を当てる。
ナツ「あ、チビスケいたよ」

チビスケがお湯の中を泳いできた

満月
満月の夜でした

もう一息だ。今度はトシの手を握りながら、陣痛の波にあわせてフーッ、ウーッ。頭がぽこんと出た。どこかへ行ってしまったナツとアチャを呼びもどす。
トシ「ナツー、アチャー、おいでー!」
ヨーコ「ナツー!、アチャー!」
私も声を振り絞って二人を呼んだ。さあ、産むぞ。もう一度、フーッ、フーッ、ウーッ。肩が抜けて、そのまま足まですーっと出てきた。助産婦さんが上手にお湯の中を泳がせてくれて、足の間からチビスケを自分で抱き上げた。

私の胸に抱かれたチビスケは、小さくウギャーと泣いた。生まれたよ! チビスケが生まれたよ! 抱いた手がチビスケの足の間に触れた。
ヨーコ「男の子だ!」
ナツとアチャがチビスケの顔をガーゼで拭いた。トシがチビスケの体をなでた。午後8時37分、陣痛が始まって11時間、ついにチビスケが生まれた。
チビスケ、ようこそ。あなたは今日から私たち家族の一員です。


ナツがへその緒を切っています
へその緒を切ったあとの処置を見守るナツ。なぜか水筒を提げていて笑え ます
姉弟3人の初ショット
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著者プロフィール
著者
根本陽子(ヨーコ)。1997年、初めての子どもを妊娠し、自分の望む出産を求めて情報を集め始める。これがきっかけとなり、「お産情報をまとめる会」(下記参照) のメンバーとなる。助産師さんに介助してもらい、長女は水中で、次女は陸で、3人目は再び水中で出産。長女の出産を機に勤務していた研究所を退職。その後フリーランスで辞典の執筆、英語講師、日本語教師、中学校の国語の講師など「ことば」に関する仕事をいろいろして、現在に至る。家族は、片付け好きで子どもの保育園の送り迎えも引き受ける夫・トシ、お姉ちゃんらしくそこそこしっかり育つナツ(小学5年)、自由奔放に心のおもむくままに育つアチャ・(小学2年)、そして2005年5月に生まれたシュンとの5人家族。(写真は、アチャが赤ちゃんだった頃のヨーコ)
お産情報をまとめる会
わたしのお産サポートノート
神奈川県と東京都町田市の産院情報「わたしのお産」、第二の母子手帳「わたしのお産サポート・ノート」を編集した、お母さんグループ。「サポート・ノート」は自分のこと、おなかの赤ちゃんのこと、医師・助産師との対話などを書きつづりながら妊娠生活を送るための本。ヨーコはここで、自分自身の記録を大公開しつつ、出産に向かう(実際の書き込み欄は小さくて、だれでも簡単に記録できるものです)。