第47回 結婚10年、これからの10年
■バレンタインアイランド江ノ島
2月のある夕方、
仕事からちょっと早めに帰ってきたトシが突然言った。
ト シ「江ノ島に行こう」
ヨーコ「えっ、江ノ島? 今から?」
トシの話によると、2月のこの時期だけ「バレンタインアイランド江ノ島」というイベントをやっていて、江ノ島の灯台や島内のあちこちがライトアップされるという。う〜ん、興味はあるけれど、人が多いんじゃないかな。夜だし、寒いし、子ども3人連れて大丈夫?
子どもを連れて、夜、人がたくさん集まるところにはなるべく行きたくない。
■子連れで人混みに出る恐怖
アチャがまだ小さかった頃、たぶん3歳くらいだったと思うが、初めて家族で花火大会を見に行った。車の渋滞を避けて電車で行ったのだが、ものすごい数の人が、駅にも道にもあふれていた。とにかく子どもたちが迷子にならないように、はぐれないように、トシはアチャを抱き、私はナツの手をぎゅっと握った。人が多いのを「こわい」と感じた。このときの記憶がよみがえってきた。
トシもこのときのことを覚えているのだろう。こう提案してきた。
ト シ「車で行こう。混んでいたらドライブだけになるかもしれないけど」
ヨーコ「う〜ん。それなら行ってもいいかな。夜のドライブも悪くないかも」
そうだ。道路が混んでいたり駐車場がいっぱいで入れなかったら無理せず帰ってくればいい。そういえば、子どもが生まれる前はよく二人でドライブに出かけたなあ。急にそのころのことが懐かしく思い出されて、出かけてもいいかなという気持ちになった。
先を歩くナツとアチャが見当たらないと思ったら、草むらで発見。何をしてるのかと聞いてみると「お地蔵さん〜!」 |
最近のシュン、お気に入りのポーズ。カメラを向けるとこの通り。前回書いたビンタン島にて |
■夜の江ノ島へ
行くと決めたら、ゆっくりしている時間はない。大急ぎで出かける準備をし、子どもたちが途中でお腹をすかせないように、簡単な夕食を食べさせて、江ノ島へと向かった。
夜の江ノ島は、人はそれなりに出ていたけれど、行楽シーズン時の混雑を想像していた私には拍子抜けするくらい、すんなりと島の中に入ることができた。
車を駐車場に停めて、まずは上を目指して登ることにする。今日はシュンを抱っこしているので、上りは「エスカー」を利用。エスカーとは有料の上り専用エスカレーター。これを何機か乗り継いでいくと展望台の近くまで登ることができる。歩いても登れるので、昼間なら子どもと一緒に歩くのも楽しい。
■幻想的な光に包まれて
道のところどころに、ライトのついた風船がゆらゆらと揺らめいている。幻想的でとてもやさしい光。この夜はかなり寒くて、冬物のコートを着ていたが、風船から放たれるやわらかい明かりが、体も温めてくれる気がした。不思議と心もおだやかになる。
上まで登ると、サムエル・コッキング苑という植物園に入った。明治時代、サムエル・コッキングというイギリス人が作ったという温室跡を整備して公開してあるのだ。苑内にも様々な光が用意されていた。ナツとアチャはその光に興奮したようで、はしゃいでいる。トシとシュンと私は、光を楽しみながらゆっくりと歩いた。
こういうロマンティックな雰囲気の場所に来たのは久しぶりの気がする。トシと二人でデートをしているような錯覚に陥った。歩きながら、トシの手をとってみた。温かかった。
神社の入り口。中にライトが仕掛けられた白い風船があちこちでふわふわと揺れています |
ミラーボールがたくさん。刻々と変化する光が美しい |
■握る手は、夫から子どもへ、そしてまた・・・
ナツが生まれてから、歩くときに握る手はナツになり、アチャになり、そして今はシュンと手をつないで歩く。子どもたちは少しずつ大きくなり、そのうち手なんかつないでくれなくなるだろう。そのときはまた、夫と手をつないで歩く日が来るのだろうか。
結婚してちょうど10年。トシとヨーコ、2人で始まった家族は、10年たって5人になった。
トシ、私と家族になってくれてありがとう。10年前に想像していたより、ずっと素敵な家族になりました。
トシも私も18歳で親元を離れて大学の寮に入った。ナツは今8歳。18歳まであと10年。そう考えると、子どもと一緒に暮らせる日々はそうは長くないのかもしれない。これから始まる新しい10年は、家族5人で暮らす、大事な10年になるに違いない。
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