3人目がやってきた!

第48回 スウィート・テン・バンコク<前編>旅の楽しみの半分は出発前

■結婚10年のプレゼント


それぞれパパの肩車
アチャはいい顔。ナツは「暑い、暑い」と少々不機嫌。シュンはとなりにある像(犬? ライオン? たぶん想像上の生き物)が気になる様子

この春、結婚10年を迎えた。夫からもらったプレゼントは、ダイヤモンドではなくて、タイ、4日間の旅。

ことの始まりは、トシ宛てに届いた1通の郵便。トシが応募したホテルの宿泊券プレゼントが当たったのだ。タイのバンコク市内にある高級ホテル。それも豪華スイートルーム3泊分。

つい3ヶ月前、ビンタン島に家族で行ってきたばかり。そうそう旅行ばかり行っていたら、家計は破綻してしまう。当たったのがタイじゃなくて、伊豆や熱海なら悩まずに行けるのに〜。

■ホテル側との交渉、大成功!

朝の散歩
アチャと二人で朝の散歩。ホテルのプールにはまだ誰もいません

実家に子どもたちを預けてトシと二人で行けるかしら。それとも大きい子どもたち(ナツとアチャ)だけ頼んで、シュンを連れて三人で行くなら可能かしら。などなど考えてはみたけれど、どれも現実味がない。

「やっぱり行くのは無理か」と私はほとんどあきらめていたのだけれど、トシは家族みんなで行く可能性を模索し始めた。

もともと2名分の宿泊券なのだが、ホテル側と交渉し、部屋のグレードを下げるかわりに、家族5人で泊まれる部屋を用意してくれることになった。

やった〜! これで5人で行けるよ。

街歩きタイの寺院
午前中は街歩きの時間。暑いので無理せず1日1カ所。今日はこれから王宮へ
タイの建物、特に寺院はきらびやか。王宮に足を踏み入れたとたん、このとおり

■家族揃って行きたい

トシが「家族揃って行きたい」とホテルとの交渉に奮闘している姿を見て、2年前のナツの小学校の入学式を思い出した。そのときシュンはまだ生まれてなくて、3歳のアチャは保育園を休ませて、入学式に連れて行った。私は、アチャをわざわざ入学式に連れていく必要はないんじゃないかと思ったのだが、トシは「アチャも連れて行こう」と言った。

案の定、アチャは式の途中で飽きてしまい、式場の体育館の中をちょろちょろと動き回った。私は大きいおなかを抱えて、アチャを追いかけた。式が終わるころには、くたくたになっていた。そして思った。ああ、やっぱりアチャは置いてくればよかった。

でも、あとになって思い出してみると、その思い出はとても温かい。あのときあの場にアチャもいて、それが、家族の思い出としてそれぞれの胸に刻まれている。もし、その思い出の中にアチャの姿がなかったらやっぱりさみしい。

たぶんトシは、家族というまとまりをとても大切に思っているんだと思う。それはほんとうにその通りで、でも私はけっこう忘れてしまうことが多くて、こうしてときどき気づかされる。

水分補給はこまめに 日本なら ほっ
まだ午前の早い時間なのに、シュンもすでに汗だく。水分補給はこまめに
日本なら、さながら金剛力士か狛犬といったところでしょうか。同じ仏教でもタイと日本ではだいぶ違うらしい
中はとにかく広くて、おまけに暑い。こんなふうに水をたたえている場所があるとほっとします

■「サワディカー」

ゾウ
タイといえばゾウ。王宮の中にある博物館の入り口にもありました
靴は脱いでね
屋根のある場所でひと休み。靴は脱いでね

タイへ行くことが決まると、ナツとアチャが、タイにとても興味を示した。

ナツはタイ語を勉強しはじめた。タイ語は文字も独特。英語ならそこそこのコミュニケーションが取れるにしても、トシも私もタイ語は全然話せないし、タイ文字も読めない。トシがタイ語会話集を買って来たが、二人ともなかなか本を開く時間が取れない。

一番にその本を読み始めたのが、ナツ。我が家では、夜寝る前に布団の中で各々が好きな本や雑誌を読むことが多いのだが、ナツはタイ語会話集をその時間に読むようになった。

ある朝起きてくると、

ナツ 「サワディカー」
ヨーコ「???」
ナツ 「タイ語で『おはよう、こんにちは、さようなら』の意味だよ」

タイ語では「サワディカー」という1つの言葉が、「おはよう」「こんにちは」「さようなら」と挨拶全般に使えるそうだ。

うん、便利なことばを1つ覚えたぞ!(ちなみに、男性なら「サワディカップ」のように最後にpの音を発音するそうです)

■人間の学びの本質

次の日には「私の名前はナツです」「ありがとう」「1,2,3」をタイ語で言えるようになった。こんなふうに、ナツはどんどんタイ語を覚えた。びっくりした。

そうして覚えたタイ語をトシや私、アチャに教えてくれる。その様子がなんとも楽しそうなのだ。

トシにその話をしたら「自然でいいよね」と言った。誰かに教えられるのでなく、誰かに強制されるのでなく、自らの興味に従って、自ら望んでそれを学ぶ(ナツ本人は、学んでいるという意識はないのだろうが)。人間の学びの本質を見ている気がした。

■手持ちの言葉、経験をフル活用して…


パパの肩車
シュンはパパの肩車が大好き。ベビーカーに乗っているのに飽きるとこうしてもらいます

アチャは、初めて行くタイという国に興味をもったようだ。毎日のようにタイの話をする。
「今度、タイに行くんだよね」
「タイの何ていうところに行くんだっけ?」
「タイはいま朝? 夜?(時差のこと)」「タイは夏?」

アチャも、アチャのもっている言葉や経験すべてを使って、いろんなことを吸収している。それをそばで見ているのが、これまた楽しい。

シュンは? たぶんパパ、ママ、ネーネーのいるところなら、どこにいても、どこへ行っても楽しいに違いない。

家族で行くことにして、ほんとうによかった。トシの選択は正解。行く前から楽しい旅になった。そういえば、「旅の楽しみの半分は出発前」というような言葉、聞いたことがあるような?

かくして、春休み、家族5人でタイのバンコクへと旅立った。


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著者プロフィール
著者
根本陽子(ヨーコ)。1997年、初めての子どもを妊娠し、自分の望む出産を求めて情報を集め始める。これがきっかけとなり、「お産情報をまとめる会」(下記参照) のメンバーとなる。助産師さんに介助してもらい、長女は水中で、次女は陸で、3人目は再び水中で出産。長女の出産を機に勤務していた研究所を退職。その後フリーランスで辞典の執筆、英語講師、日本語教師、中学校の国語の講師など「ことば」に関する仕事をいろいろして、現在に至る。家族は、片付け好きで子どもの保育園の送り迎えも引き受ける夫・トシ、お姉ちゃんらしくそこそこしっかり育つナツ(小学5年)、自由奔放に心のおもむくままに育つアチャ・(小学2年)、そして2005年5月に生まれたシュンとの5人家族。(写真は、アチャが赤ちゃんだった頃のヨーコ)
お産情報をまとめる会
わたしのお産サポートノート
神奈川県と東京都町田市の産院情報「わたしのお産」、第二の母子手帳「わたしのお産サポート・ノート」を編集した、お母さんグループ。「サポート・ノート」は自分のこと、おなかの赤ちゃんのこと、医師・助産師との対話などを書きつづりながら妊娠生活を送るための本。ヨーコはここで、自分自身の記録を大公開しつつ、出産に向かう(実際の書き込み欄は小さくて、だれでも簡単に記録できるものです)。